犬猫の避妊および去勢手術について
繁殖制限のみならず動物の精神安定や病気予防の配慮を!
精神的な安定をもたらすために
犬猫は人間の良き伴侶として心に豊かさを与えてくれます。そのパートナーとしての犬猫にとって避妊および去勢手術とはどのような意味があるのでしょうか。
多くの方は,子供を生ませないようにするための手術と考えています。もちろん外に自由に出るメス猫などは,妊娠を避けるために必須の手術です。しかし,それだけの目的なら室内飼いで,妊娠や交尾の心配がない犬猫は手術の必要はないのでしょうか?
よく、手術などして自然の摂理に反する行ないはかわいそうだとの意見を耳にします。本当にそうでしょうか。犬や猫のコンパニオンアニマルは長い歴史と共に人との関係を築き上げてきました。ですから野生の動物のような自然な生殖行動は制限されます。ペットであることは大前提としてすでに自然な状態ではないのです。
ではこのような状況の中で,我々飼い主はどうすればよいのでしょう。このような動物から性的な欲求や,発情の憂鬱から開放してあげることも忘れてはなりません。
想像してみてください。
人類が宇宙人に侵略され,生き残るために宇宙人のペットとして彼らの支配下のみでしか生活できなくなったとします。性成熟に達した人間は,窓越しや散歩の時には見ることができるが、自由に接触することができない異性に恋焦がれるますが、その恋を成就することは決してできないのです。一生悶々として生きていかなくてはならないのです。そして,主人である宇宙人だけと、良い関係を保って可愛がられなければならないのです。
こんな状態が長く続けば,人間はプッツン切れて主人である宇宙人との関係がおかしくなったり,精神的に安定が保てなくなることは容易に想像できますよね。(ようするに自分がペットだったらどうなんだろうと、ペットの立場に立って考えてみていただきたいということなのです。)
やはり,我々人間と犬や猫との幸せな安定した生活を考えるなら,繁殖をさせないと決めたペットは避妊または去勢手術をしてあげることが飼い主の義務ではないでしょうか!
生殖器や性ホルモンに関係する病気の予防のために
また,我々、獣医師が日々直面している病気と言う観点から考えてみましょう。
避妊手術,去勢手術とは実際には卵巣(及び子宮),精巣を摘出する手術のことです。
これにより卵子や精子作られなくなること(繁殖が不可能になる),卵巣や精巣から出るオスやメスの性ホルモンがなくなる(性的な衝動や発情がなくなる)などの効果を期待して行なう手術です。
このことだけでなく,更に性ホルモンに関連した病気の発生を少なくする効果が期待できるのです。例をあげますと,雌犬に比較的多発する乳腺腫瘍は,メスのホルモンに影響されて発症する腫瘍で,最初の発情が来る前に卵巣を摘出してしまえば,腫瘍発生の可能性は著しく下がることが統計的にわかっています。
我々獣医師が,乳腺腫瘍で亡くなった犬の飼い主さんに、避妊手術を小さい時にしておけばこんな事にはならなかったのにと言っても、時すでに遅しです。飼い主さんとしては生後1年足らずの時に将来の病気のことを考えることはなかなかできないかもしれませんが、たくさんの乳腺腫瘍や子宮や卵巣の病気で苦しむ動物を見ている我々としては,早い時期の手術をお勧めして,飼い主さんに同意していただく以外ないのです。
交尾による病気では犬の可移植肉腫という性器の腫瘍などもあります。(放れている犬が少ないので最近は激減ですが。)
猫でも、メスを求めての喧嘩や交尾から移る猫エイズなど、予防の出来ない大変危険な病気があります。
その他メリットについても下記の「避妊及び去勢手術の実際」にいくつかあげてあります。
このように、手術をすることで動物と飼い主の絆をより強く、共に安定した健全な生活をより長く保つことが可能になります。
手術で摘出する臓器は繁殖以外に生命維持のため必要なものではないので、その後の生活で問題になることはほとんどありません。現実にたくさんの動物が手術を受けて暮らしており、それらの動物のほうが長生きしている事実を知っておいてください。
また繁殖をお考えの方でも繁殖に適した若い時期(1~3歳)に繁殖をさせて、その後手術をしてあげることが理想ではないでしょうか。
避妊および去勢手術の実際
当院では、前日までに予約をいただき、当日の午前中に朝食を与えないで来院いただいております。
オスの去勢手術
去勢手術は精巣を取ってしまうため,オスのホルモンが減り,メスを求める行動が抑制され放浪、喧嘩,交通事故,伝染病の感染(猫エイズウイルス、猫白血病ウイルス、犬可移植性性器肉腫)の確率が低くなります。
室内の犬猫でも、問題行動として飼い主を悩ませることの多い,スプレーやマーキング(尿かけ)を防止します。(スプレー行為を覚える前に手術をしてあげるほうが予防効果が高いようです。)
また老犬に多いオス特有の病気(肛門周囲腺腫,前立腺の病気,会陰ヘルニアなど手術が必要な病気や予後の不良な病気)の予防効果が期待できます。
若い時期に手術する場合は比較的安全に簡単に、短時間で終了します。
当院では、一般的には手術当日に連れて帰ることが可能です。
1~2週間後に抜糸にお連れいただきます。(猫の場合は抜糸の必要はありません)
メスの避妊手術
お腹を切開して卵巣,子宮を取り出します。初めての発情が来る前に手術することにより,比較的多発する乳癌の発生率が著しく下がります。(2歳以内に手術することでもかなりの効果が期待できます。)老犬に多い子宮や卵巣の病気(子宮蓄膿症など)もなくなります。
発情による猫の鳴き声や,犬の出血もなくなり室内を汚すこともありません。
若い時期に手術する場合は比較的安全に行なうことができます。当院では卵巣と子宮を摘出します。
当院では、お腹の内側を吸収性の糸で何重にも縫いますので、表面の糸(皮膚の糸)が取れても普通は簡単には開いたりしません。こうして包帯の必要がないように心がけていますので、術後に動物に負担をかけることを軽減できます。
当院では一般的に、手術当日は入院していただき、翌日退院が可能です。1~2週間後に表面の糸だけ抜糸を行ないます。
●よくある質問
Q: | 手術する最適な時期はいつですか? |
A: | 犬猫とも4ヶ月くらいから出来ますが,6~8ヶ月くらいが最適です。 |
Q: | この手術は痛いですか? |
A: | もちろん全身麻酔で行ない、痛みはさほど感じません。 |
Q: | 手術をすることで何か悪い影響はありませんか? |
A: | 活動性の低下などにより太りやすい傾向がありますが,飼い主さんのしっかりしたカロリー管理で十分調節できます。 |